伊藤孝雄さん逝去、舞台と映画に刻まれた遺産
個性派俳優・伊藤孝雄さんの遺産:舞台に刻まれた不朽の足跡
個性派俳優として長年にわたり日本の演劇界を支えてきた伊藤孝雄さん(87歳)が、2024年8月14日に多臓器不全のため都内の自宅で亡くなったことが報じられました。彼の死去は、劇団民藝による公式発表で公にされ、葬儀は家族のみで静かに執り行われました。伊藤さんは、その深い演技と存在感で数多くの舞台や映画、テレビドラマでの功績を残しました。
時代劇と舞台での活躍
伊藤孝雄さんといえば、NHKの大型時代劇「真田太平記」での上杉景勝役が特に記憶に残っています。彼は、義を重んじる武将役を見事に演じ、その重厚な演技で視聴者に強い印象を与えました。舞台でも、1967年には木下順二作『白い夜の宴』で紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞するなど、その才能を余すことなく発揮しました。
伊藤さんが所属していた劇団民藝では、チェーホフ作『かもめ』やサルトル作『汚れた手』など、数々の名作で主役を務めました。彼の演技は、ただ上手いだけでなく、観客の心を揺さぶるものがありました。彼の存在感は、舞台の上で輝きを放ち、多くの共演者からも尊敬を集めていました。
人間味あふれる二面性
伊藤さんの人柄について、俳優座養成所で同期だった樫山文枝さんは、「目の覚めるような天下の二枚目なのに中身は三枚目でユーモアあふれる愛すべき人」と評しています。このコメントからもわかるように、彼は見た目の端正さとは裏腹に、ユーモラスで親しみやすい性格を持っていました。彼の持つ人間味は、多くの共演者やスタッフから愛され、舞台裏でも重要な存在だったことが窺えます。
映画界への貢献
舞台だけでなく、映画界でも伊藤さんはその名を刻んでいます。1959年の日活作品「密会」や1970年の「戦争と人間 第一部」など、数多くの作品に出演し、映画ファンにもその名を広めました。彼の演技は、静かでありながらも深い感情を表現することで、多くの観客を魅了しました。映画という異なるフィールドでも、伊藤さんの存在感は際立っていました。
多岐にわたる活動とその影響
伊藤さんの活動は、舞台や映画にとどまらず、テレビドラマや吹き替えにも及びました。彼はその多才さを活かし、さまざまな役柄を演じ分けました。その柔軟な演技力と幅広い活動は、後進の俳優たちにとっても大きな影響を与えたことでしょう。
彼の最後の舞台は2020年の吉永仁郎作『集金旅行』での津村家の番頭役でした。この役を最後に、彼は長いキャリアに幕を下ろしましたが、その演技は今も多くの人々の心に残っています。彼の死去は、日本の演劇界にとって大きな損失であり、その功績は今後も語り継がれていくことでしょう。
伊藤孝雄さんの人生は、まさに演技に捧げられたものでした。彼の持つ深い演技力と人間味は、多くの作品を通じて今も生き続けています。彼が残した遺産は、これからの俳優たちの指針となり、観客に感動を与え続けることでしょう。
[山本 菜々子]