光害の影響、農業から海の生態系まで:山口大学山本名誉教授の挑戦
光害の影響:農業から海の生態系、空の美まで
現代社会は、夜も昼のように明るくする照明技術を手に入れました。しかし、その明かりがもたらす「光害」は、我々が思う以上に深刻な問題を引き起こしています。光害は単に星空を見えにくくするだけでなく、農作物や動植物、さらには天文現象にまで影響を及ぼしています。
山口大学の山本晴彦名誉教授が指摘するように、夜間の街灯の光はイネの生育に影響を与えています。イネは日照時間を頼りに成長を調整する植物です。しかし、夜間に街灯の光を日光と勘違いすると、出穂期が遅れ、収穫量や品質が低下します。この問題に対処するため、山本名誉教授はイネには断続的にしか見えない特殊な街灯を開発しました。これにより、農業と人間の暮らしの共存を目指しています。
一方、光害は海の生態系にも影響を及ぼしています。米国フロリダ州では、海岸沿いの明るい照明がウミガメの産卵を妨げています。ウミガメは自然の暗さを利用して方向を認識しますが、人工的な明かりがそれを乱してしまうのです。ウミガメ保護機構(STC)は、海岸沿いの照明を赤色やオレンジ色の波長が長い光に変更し、ウミガメの行動を保護する取り組みを進めています。このような努力によって、子ガメたちが無事に海へ向かう割合が大幅に改善されました。
さらに、光害は野鳥の渡りにも影響を与えています。渡り鳥は夜空の星や月を頼りに移動しますが、都市部の明るい光に引き寄せられ、ビルに衝突する事故が多発しています。米国では、渡り鳥を保護するために不要な照明を消す運動が始まっています。特にテキサス州では、春と秋の渡り鳥のシーズンに合わせて、建物の照明を調整する取り組みが進行中です。
光害が自然界に及ぼす影響は、農業や海の生態系、野鳥の渡りにとどまりません。天文学の分野でも、光害は大きな問題となっています。2024年のふたご座流星群は、北半球で最も壮観な流星群の一つとされていますが、12月15日の満月がその観測を妨げる可能性があります。満月の明るい光は、流星の輝きをかすませてしまいます。流星群を見るためには、光害の少ない場所を選び、月の出ていない時間帯を狙うことが推奨されます。
このように、光害は多岐にわたる影響を及ぼしています。技術の進歩に伴い、我々は夜の闇を人工的に明るくすることが可能になりましたが、その一方で自然界が長年にわたって適応してきた環境をも変えてしまっています。光害を減らすためには、技術的な工夫だけでなく、私たち一人ひとりの意識改革が必要です。例えば、夜間の不要な照明を減らし、自然のリズムを尊重することが求められます。
光害の問題は、我々の生活の質と環境の持続可能性に直結しています。エネルギー消費の削減や生物多様性の保護、さらには天文学的観測の質向上のため、光害対策は今後ますます重要になるでしょう。暗い夜空を取り戻すことで、地球上のあらゆる生命が健やかに生きる環境を確保することができるのです。
[鈴木 美咲]