経済
2024年11月29日 07時18分

カシオのサウナ専用腕時計「サ時計」が登場!新市場への挑戦とその背景

カシオ、サウナ専用腕時計「サ時計」開発の舞台裏とその挑戦

カシオ計算機が新たに発表したサウナ専用腕時計「サ時計」は、今後の同社の製品戦略における一つの分岐点となり得るかもしれない。この時計は、サウナ愛好者、通称「サウナー」に向けた特別なアイテムであり、耐熱性や防水性といった特性を備え、サウナ内での使用を可能にしている。サウナでの時間管理に役立つ「12分計」を搭載し、サウナーたちの「ととのい」体験を一層豊かにすることを目指している。

カシオの挑戦:新たな市場へのアプローチ

カシオがこの「サ時計」を開発した背景には、サウナ人気の高まりと、その特異な市場への対応がある。コロナ禍で一時的に減少したサウナ利用者も、現在では回復傾向にあり、サウナを楽しむためのさまざまなアイテムが市場に出回るようになった。サウナーたちの間では、サウナでの適切な時間管理が重要視されており、今回の「サ時計」はそのニーズに応える形で誕生した。

カシオの開発リーダーである山田真司氏は、サウナ内では従来の腕時計やスマートフォンが使いづらいという現場の声を受け、サウナ専用の時計を開発することを思い立った。サウナでの利用が難しいG-SHOCKとは異なり、「サ時計」は高温と高湿に対応するための特別な設計が施されている。特に、耐熱電池の採用と透湿性の低い樹脂ケースは、サウナ環境下での信頼性を高めるための重要な要素である。

サ時計の開発プロセスとその可能性

「サ時計」の開発は、カシオの新規事業プログラムの一環として進められた。このプログラムは、社員からのアイデアを基に商品化を目指すものであり、サ時計もその一部としてスタートした。試作品の段階では、デジタルとアナログの両方の試みがあり、最終的には消費者の声を反映し、アナログ表示での製品化が決定された。特に、腕に馴染む「くるくるゴム」を採用したバンドは、サウナ利用時の利便性を考慮したカジュアルなデザインが好評を博している。

この時計が市場でどのように受け入れられるかは、今後のカシオの製品開発に大きな影響を与える可能性がある。サウナ文化のさらなる拡大を背景に、サ時計が成功すれば、カシオにとって新たなビジネスの柱となるかもしれない。

また、サ時計の成功はカシオのブランディングにも寄与する。G-SHOCKが耐久性の象徴として広く認知されているのに対し、サ時計はサウナーに向けた特化型製品として、特定のニーズに応えるブランド価値を持つことになる。こうしたブランドの多様化は、消費者の多様なニーズに応えるために重要であり、今後の市場競争においても有利に働くと考えられる。

サイバー攻撃の影響と業績への影響

一方で、カシオは10月に発生したサイバー攻撃によって、主要な出荷システムが停止し、G-SHOCKを含む新製品の供給に影響を受けた。今年度の売上高は約130億円の減少が見込まれており、クリスマス商戦に向けた供給回復も難しい状況だ。このような逆風の中で「サ時計」がどのような評価を受け、売上に寄与するかは注目される。

サイバー攻撃による供給不足は、カシオにとって痛手だが、同時にデジタルセキュリティの重要性を再認識する機会でもある。企業の成長において、技術開発と同様にデジタルセキュリティの強化も欠かせない。今後の同社の対策と改善が、企業としての信頼性をさらに高めることにつながるだろう。

カシオにとって、サ時計のリリースはただの新製品発表にとどまらない。サウナ市場への進出は、同社のブランド力を新たな方向へと導く可能性を秘めている。時計市場全体が成熟化している中で、ニッチ市場へのアプローチは、従来のビジネスモデルを再定義し、新たな成長をもたらす鍵となるかもしれない。

[山本 菜々子]