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2024年11月29日 07時14分

JAXA「イプシロンS」ロケット試験失敗、開発危機に直面

JAXAの固体ロケット「イプシロンS」、連続する試験失敗とその背景

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発中の固体燃料ロケット「イプシロンS」は、一連の燃焼試験での失敗により、開発の進展が危ぶまれています。特に第2段モーターの地上燃焼試験で2度にわたる爆発が発生し、JAXAは原因調査チームを設置して対応を進めています。この状況は、日本の宇宙開発にどのような影響を与えるのでしょうか。

イプシロンSの背景と目的

イプシロンSは、JAXAによる小型化した衛星の打ち上げ需要に対応するための固体燃料ロケットです。このプロジェクトは、2020年に開発が始まり、2024年度内の打ち上げを目指していました。イプシロンSは、既に実運用されている大型の液体燃料ロケット「H3」とのシナジー効果を狙い、国際競争力の強化を図っていました。

「S」は「シナジー」を意味し、H3ロケットの固体ロケットブースター(SRB-3)と生産を共通化することでコスト削減を図ることが目標です。これにより、欧州のVEGAロケットやその発展型であるVEGA-Cとも競争できる打ち上げ能力を持つことを目指していました。

固体ロケットの特性と課題

固体ロケットは、推進装置を「モーター」と呼び、成形された固体推進薬を燃焼させることで推進力を得ます。この推進薬は一度点火すると燃え尽きるまで止めることができないため、使い切りの特性を持ちます。したがって、地上での燃焼試験は不可欠であり、設計上の問題や生産のばらつきを最大限に排除する必要があります。

イプシロンSの開発においては、1段目はH3ロケットとの共通化のプロセスで試験を行い、2段目のモーターも試験が必要でした。しかし、2023年に実施した2段目モーターの試験では、火薬を含む部品から飛散した金属が原因で爆発が発生しました。この失敗を受け、試験場所を種子島宇宙センターに移し、再試験を行いましたが、再び爆発が発生しました。

原因調査と今後の展開

連続した試験失敗を受けて、JAXAは原因調査チームを設置し、徹底的な原因究明に取り組んでいます。現時点での調査では、モーターケースの耐圧性能の範囲内での爆発が2023年の試験失敗と重なる要因とされています。これにより、イプシロンSの初号機の打ち上げは延期が避けられない状況です。

種子島宇宙センターの設備にも損傷が見られ、修復には時間がかかる見込みです。これにより、予定されていた衛星の打ち上げ計画にも影響が出る可能性があります。特に、2024年度中に打ち上げ予定だったベトナム向けの地球観測衛星や、2025年度中の革新的衛星技術実証機などのスケジュールが再調整を迫られることが懸念されます。

まとめとして、イプシロンSの試験失敗は、日本の宇宙開発計画において厳しい課題を突きつけています。特に、試験段階での失敗が続くことで、打ち上げスケジュールや国際的な競争力に影響を及ぼす可能性があります。しかし、試験失敗で問題を発見し、改善することこそが、打ち上げ時のリスクを最小限に抑えるために重要です。JAXAの徹底した原因調査と対策が、日本の宇宙開発の未来を切り拓く鍵となるでしょう。

[佐藤 健一]