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2024年12月02日 06時30分

日本発「Japan Smart Chain」が切り拓く未来のブロックチェーン戦略

日本発ローカルチェーン「Japan Smart Chain」──その必要性と未来への展望

千葉工業大学での発表会場には、デジタルガレージ共同創業者の伊藤穰一氏とPaidy創業者ラッセル・カマー氏が登壇し、日本発のローカルチェーン「Japan Smart Chain(JSC)」の開発を発表しました。このプロジェクトは、イーサリアム完全互換のブロックチェーンであり、日本国内にデータとバリデーターを置くことを特徴としています。なぜ今、日本からのローカルチェーンが必要なのか、その背景と未来への可能性について探っていきましょう。

インターネットの進化と「アンバンドル」の役割

伊藤氏のプレゼンテーションは、インターネット革命の歴史的背景に触れ、ブロックチェーンの位置づけについての深い洞察を提供しました。インターネットが始まる前、電話会社が全てを独占していた時代から、各レイヤーが分かれ、オープンプロトコルが生まれたことにより、競争が活発化した経緯を解説しました。プロトコルが標準化され、イーサネットやTCP/IPといった基盤技術が確立されたことで、現在のインターネット社会が形成されたのです。

この「アンバンドル」の概念は、ブロックチェーンにも適用されます。ブロックチェーンは、従来のインターネット上に新たなレイヤーとして機能し、分散型でプログラマブルな社会を実現するための鍵となっています。

ブロックチェーンと会計の歴史的進化

伊藤氏は、会計の歴史にまで遡ってブロックチェーンの重要性を説明します。メソポタミアの粘土板から始まった簿記が、都市のスケールを拡大し、現代のマーケット経済の基盤となったように、ブロックチェーンもまた、新たな社会インフラとしての可能性を秘めています。紙とインクからデジタルへ、そしてブロックチェーンへと進化することで、スマートコントラクトを通じた新しい形の社会が構築されつつあります。

「Japan Smart Chain」の役割と必要性

では、なぜ今、日本発のローカルチェーンが必要なのでしょうか?伊藤氏は、イーサリアムやビットコインといったグローバルなプロトコルが存在する中で、ローカルなチェーンの必要性を強調しました。それは、インターネットにおけるLANの役割に似ています。グローバルネットワークが存在する一方で、家庭や企業内ではローカルネットワークが重要な役割を果たしているのです。同様に、日本国内では、信頼できる顔が見える人たちのネットワークを構築し、安全保障や個人情報管理を行うために、ローカルチェーンが必要とされているのです。

Web3の波に乗る日本の戦略

日本のWeb3戦略は、これまでの暗号資産業界の動向を反映しています。過去のバブル期や規制の厳しさを経て、現在の状況は「冬の時代」とも言えるかもしれません。しかし、この時期にこそ、長期的なセキュリティを重視したプロジェクトを構築することが重要だと伊藤氏は述べています。現在、日本はWeb3の波の先頭に立ち、法律に適合したブロックチェーンを開発することが重要な戦略とされています。

この背景には、過去の失敗から学び、新たな波に備える日本の姿勢が見て取れます。波が訪れる際に、しっかりと乗り続けることができるかどうかが、今後の成功を左右するでしょう。

Japan Smart Chainと他のプロジェクトの違い

Q&Aセッションでは、Japan Smart Chainが他の日本発プロジェクトとどのように差別化されるのかについても議論が行われました。伊藤氏は、ターゲットが異なることを強調しつつ、Japan Smart Chainがコンプライアンスと規制環境におけるユースケースに重点を置いていることを説明しました。また、イーサリアムとの「Ethereum equivalence(イーサリアム・イクイバレンス)」を実現することが、このプロジェクトの特徴であると述べています。

カマー氏は、「複数のチェーンが存在することでマーケットが活気づく」との見解を示し、消費者やユーザーに多くの選択肢を提供することが重要であると述べました。こうした多様な選択肢の中で、Japan Smart Chainが独自の強みを発揮することが期待されています。

日本発のブロックチェーンがもたらす未来

Japan Smart Chainの開発は、日本のデジタル社会における重要なステップとなるでしょう。ローカルなチェーンによる主権性の確保は、安全で信頼性のあるデジタルインフラを構築するための第一歩です。これにより、日本は新しいテクノロジーの波に乗り、グローバルな競争の中での存在感を示すことができるでしょう。

このプロジェクトは、単なる技術的な進化にとどまらず、社会全体の進化を促進する可能性を秘めています。未来のデジタル社会において、日本がどのような役割を果たすのか、その行方が注目されます。

[伊藤 彩花]