斎藤工の新ドキュメンタリー「大きな家」:児童養護施設の現実を照らす
斎藤工が描く「大きな家」:児童養護施設の現実に迫るドキュメンタリー
俳優でありプロデューサーの斎藤工さんが、私たちの見過ごしてきた現実に新たな光を当てるドキュメンタリー映画「大きな家」を発表しました。この作品は、東京都内の児童養護施設で成長していく子どもたちの日常を描いたもので、斎藤さん自身が「自分の人生の中で大きな出来事」と語るほど、深い思いを込めています。映画の公開直前に行われた舞台あいさつでは、斎藤さんと竹林亮監督が登壇し、作品の背景や意図を語りました。
見て見ぬふりをしていた「近さ」
斎藤さんは、「この作品が誕生しなければ、関わらなければ、見て見ぬふりをしていた日常があった」と振り返ります。児童養護施設は、親と離れて暮らす子どもたちの成長を支える場であり、18歳になれば自立を求められる現実があります。斎藤さんは、映画を通じて、私たちが普段は気づかない、しかし目の前にある現実を伝えようとしています。
この映画は、斎藤さんが初めて養護施設を訪れたときに出会った子どもたちとの交流がきっかけで始まりました。「今日しか来ない大人の1人と思われたくなくて」という言葉には、彼の真摯な思いが込められています。彼は、子どもたちとの関係を一時的なものにせず、持続的に関わることを意識しました。これにより、彼の中で「点と点が線になっていく」プロセスが始まり、その線はやがて映画という形で結実しました。
子どもたちのリアルな姿を映す挑戦
斎藤さんは、映画の制作において「ノイズにならないように子どもたちの撮影に立ち会わなかった」と述べています。彼は、自分の存在が作品の中心になることを避け、子どもたちの自然な姿をそのまま映すことを心掛けました。これにより、観客は教科書的な視点にとらわれることなく、子どもたちの日常を「呼吸をするように」感じ取ることができます。
また、プライバシーの保護にも細心の注意が払われています。斎藤さんは「モザイクや目線を入れることは守る行為ではあるが、映画を見た当人の思いも様々で、出たい子もいる」と語り、子どもたちの意志を尊重する姿勢を示しました。映画は映画館のみでの上映となり、配信やパッケージ化は行わない方針です。これは、観客が映画館という特別な空間で、子どもたちの輝きを直に感じ取ってほしいという願いから来ています。
「大きな家」に込められたメッセージ
斎藤さんは、この映画を通じて「近いのに近づこうとしなかった日常」を再発見し、私たちにもその経験を共有してほしいと願っています。彼の言葉には、日常の中で見過ごされがちな現実に目を向け、そこに関わることの重要性が込められています。「この作品に関わっていなければ、見て見ぬふりをして、近いのに近づこうとせず遠くに置いていた日常があった気がした」と語る斎藤さんの思いは、観客一人ひとりに響くことでしょう。
この映画は、児童養護施設という舞台を通じて、私たちが普段考えもしない「家族」の形を問いかけます。斎藤さんは「みなさんが彼らの未来に1歩でも半歩でも関わるきっかけになったら本望」と語り、観客に対し、映画を通じて得た感動や気づきを持ち帰り、日常の中で生かしてほしいと願っています。
「大きな家」は、ただのドキュメンタリー映画ではなく、私たちの心に問いを投げかける作品です。それは、斎藤工という一人の俳優が、一人の人間として、私たちに届けたいメッセージの結晶といえるでしょう。映画を観ることで、日常の中に埋もれていた「近さ」に気づき、私たち自身の生活にも新たな視点を加えることができるかもしれません。
[中村 翔平]