経済
2024年12月05日 21時20分

トヨタ「AE86 BEV」:伝説の復活と未来への挑戦

トヨタとスバルの「手の届くスポーツカー」が消えた日

ヨーロッパの道路からトヨタ「GR86」とスバル「BRZ」が姿を消しました。2024年の夏、EU全域で新車販売が終了したのです。理由はEUの厳格化された安全規格基準。トヨタとスバルは、この基準に適合させるための高額な投資を見送りました。これにより、ドイツをはじめとする欧州各地で、比較的手頃な価格で手に入る少数のスポーツカーが市場から消滅しました。

これらの車は、ドイツでは特に熱心なファンを持ち、「手の届くスポーツカー」として若者たちの夢を支えてきました。特に、ドイツの自動車愛好家の間では、ニュルブルクリンクでの走行を楽しむためにカスタムされた「GR86」や「BRZ」が人気です。ニュルブルクリンクといえば、ドライバーの腕試しの場としても有名で、地元のジャーナリストであるミヒャエルも愛車の「86」でこのサーキットを楽しんでいました。

しかし、新車市場からの撤退は、日本車に限らず、他の国産メーカーのスポーツカーにも影響を及ぼしています。例えば、スズキ「スイフトスポーツ」も同様の理由で市場から消えました。この背景には、ヨーロッパでの自動車市場の変化があります。最近では、より環境に優しい車へのシフトが求められ、電動車両の開発が急ピッチで進んでいます。

甦る「ハチロク」:AE86 BEVの挑戦

そんな中、トヨタはAE86をベースにした電動車「AE86 BEV Concept」で新たな試みを行っています。この車は、1980年代の名車AE86のボディをそのままに、バッテリーEV化を行ったモデルです。特徴的なのは、AE86のハンドリングと軽快さをそのままに、現代の電動技術を組み合わせたこと。さらに、6速マニュアルトランスミッションを搭載し、クラッチ操作も必要とするため、ドライバーはあたかもガソリン車を運転しているかのような感覚を楽しめます。

この「AE86 BEV」は単なるショーモデルにとどまりません。トヨタは、これを基にしたパワートレインキットの販売や、コンプリートカーの製造を検討しており、新たな事業としての可能性を模索しています。豊田章男会長は、「Mobility for ALL(移動の可能性をすべての人に)」というビジョンの下、旧車にもカーボンニュートラルの取り組みを広げ、愛車を長く乗り続けたいというユーザーの願いを叶えようとしています。

旧車の未来:トヨタの革新

トヨタがAE86を選んだ理由は、その象徴的な存在感にあります。「ハチロク」は多くの車好きにとって、手頃な価格で楽しめるスポーツカーの代名詞です。その車が、電動化の波に乗り再び市場に登場するというのは、非常に興味深い試みです。特に、電動車両が主流となる未来において、ガソリン車の楽しさを電動車でどのように再現するかは、多くのメーカーにとって課題であり、トヨタはその一つの解を示しています。

さらに、トヨタはユーザーの声を重視し、実際の体験を通じて改良を重ねていく方針をとっています。2024年には、AE86 BEVの試乗サービスが行われ、多くのユーザーが参加しました。ユーザーからのフィードバックは、今後の開発において重要な役割を果たすでしょう。

トヨタのこの取り組みは、単なる過去の名車の再生ではなく、未来の車文化を再定義しようとする試みです。愛され続ける車の価値を、新しい技術でどのように保ち続けるのか。その挑戦は続きます。

[高橋 悠真]

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