国内
2024年12月08日 23時52分

長崎から世界へ、ノーベル平和賞授賞式に向かう被爆者たちの決意

平和への願いを胸に:ノルウェーに向かう長崎の声

長崎空港から出発するその瞬間、田中重光さんと横山照子さんは、まるで時代の重みを肩に乗せたかのような姿で、報道陣に囲まれていた。彼らは、ノルウェー・オスロで行われるノーベル平和賞授賞式に出席するための旅路に出た。田中さんと横山さんは、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表として、核兵器廃絶のメッセージを世界に届ける使命感に満ちていた。

田中さんは、幼少期に被爆した記憶を語ることに葛藤を抱えていたが、その責任感と使命感に突き動かされ、ようやく証言する決意を固めた。彼の言葉は、まるで長崎の過去と未来を繋ぐ架け橋のようだ。「二度と被爆者をつくらないために私たちは生かされてきた」という彼の思いは、単なる個人的な願いを超え、全人類へのメッセージに変わっている。

先人の思いを胸に、新たな世代へとバトンを渡す

田中さんが手にしていたのは、前任者である谷口稜曄さんとの写真だった。谷口さんは、被爆者としての痛ましい体験を世界に伝え続けた人物であり、その姿を見続けた田中さんは、彼の遺志を引き継ぐ決心をした。谷口さんの背中には、原爆の熱線によって焼けただれた痕跡が残っていたが、その姿こそが、核兵器の恐ろしさを物語っている。

「同じ被爆者でも違う」と感じた田中さんの気持ちは、核兵器廃絶のために自らができることを模索する過程で大きく変わっていった。被団協の活動を通じて、彼は語り部としての役割を果たし始め、特に若い世代に対する教育活動を重視するようになった。未来を担う若者たちが、過去の悲惨な歴史を学び、自らの手で核兵器のない世界を築くことが、彼の願いである。

核廃絶をめぐる国際情勢と希望の光

核兵器の脅威は、単なる過去の問題ではなく、現代社会においても深刻な課題として残っている。国際社会における核軍縮の動きは一進一退を繰り返し、多くの国が未だ核兵器を保有している現状だ。しかし、田中さんのような被爆者たちの証言は、世界中の人々に核兵器の非人道性を訴え、核廃絶への道筋を示す灯火となっている。

笑顔で手を振る姿の裏にある決意

取材を終えた後、田中さんと横山さんは笑顔で手を振りながら搭乗口へと向かった。その姿は、ただの旅立ちではなく、新たな戦いへの出陣のようでもあった。彼らが運ぶのは、被爆者たちの苦しみや希望、そして未来への願いだ。ノーベル平和賞授賞式という舞台で、それらを世界中に届けることができるかどうかは、まだ分からない。しかし、彼らがそれを試みる理由は、明白である。

核兵器のない世界の実現は、容易なことではない。だが、田中さんたちのように、過去の痛みを乗り越え、未来に希望を見出そうとする人々の存在がある限り、その夢は決して消えない。彼らの行動は、まるで小さな石を水面に投げ入れたときの波紋のように、広がり続けていくことだろう。

[高橋 悠真]

タグ
#ノーベル平和賞
#核廃絶
#長崎