奥山由之監督の新作『アット・ザ・ベンチ』、日常を彩るオムニバス映画
奥山由之監督の挑戦:『アット・ザ・ベンチ』が描く日常のオムニバス
映画『アット・ザ・ベンチ』は、奥山由之監督が自主制作したオムニバス長編映画で、まさに日常のささやかな一瞬を切り取る作品だ。この映画は、東京の二子玉川にある古ぼけたベンチを舞台に、多彩な俳優たちが演じる短編を集めている。広瀬すず、仲野太賀、岸井ゆきの、岡山天音、荒川良々、今田美桜、森七菜、草なぎ剛、吉岡里帆、神木隆之介という人気俳優たちが、一つのベンチを中心にした物語に息を吹き込んでいる。
四季折々の撮影風景と俳優たちの自然な姿
この映画のメイキング映像は、1編ずつ1日という限られた時間で撮影された現場の様子を8分間に凝縮している。第1編では、広瀬すずが演じる莉子が、炎天下に仲野太賀演じる徳人と電話で会話するシーンが撮影された。蝉の声が響く中、広瀬は涼しげな表情で演技を続け、その自然体な姿に視聴者も心を奪われる。
続く第2編では、岸井ゆきの、岡山天音、荒川良々の三人が、ベンチで繰り広げるアドリブのやりとりが見どころだ。荒川が演じる国枝が寿司のパックからガリを取ろうとするシーンでは、思わず笑いがこみ上げる。その場での即興の演技に、監督の奥山自身も思わず吹き出してしまう場面が映し出されている。
第3編は、悪天候を望んでいた奥山監督の意向通り、曇天の中でクランクインした。今田美桜と森七菜が姉妹役で激しく言い争うシーンは、カメラが止まると笑顔で仲良く言葉を交わす二人の姿が微笑ましい。
奥山監督の独自性が光る第4編
第4編は特に異彩を放つストーリーで、奥山監督自身が脚本を手がけた。草なぎ剛と吉岡里帆が区役所のユニフォームに身を包み、神木隆之介は撮影スタッフのような立ち位置で登場する。草なぎと吉岡が発する「宇宙語」とも言える奇妙な音声が、物語にユーモアとミステリアスな雰囲気を加えている。これに対し、神木が「はいカット!」と声をかけるシーンが、メイキング映像でも一風変わった様子を伝えている。
映画全体を包み込む暖かさと親近感
映画のラスト、第5編では広瀬と仲野がベンチで親しげに会話を交わす様子が映し出される。広瀬の髪型の変化から時間の経過が感じられ、季節の移ろいが視覚的に表現されている。奥山監督が夕暮れのシーンを狙っていることを二人に伝え、陽が暮れる直前にすべての撮影が終了する。クランクアップの瞬間、キャストとスタッフの拍手に包まれ、奥山監督の「楽しかったです」という言葉が、この映画の持つ暖かさを象徴している。
『アット・ザ・ベンチ』は、日常の小さな出来事にスポットライトを当てることで、観客に共感を呼び起こす。何気ない日常が持つドラマティックな瞬間を、ベンチという限られた空間で描き出すこの映画は、日常の中に潜む美しさを再発見させてくれる。観客もまた、このベンチの物語を通じて、自分の日常の中にある小さなドラマを見つけることができるかもしれない。映画を見終えた後、多摩川遊園にあるベンチを訪れたくなる衝動に駆られるのも、この作品が持つ魅力の一つだろう。
[高橋 悠真]