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2024年12月27日 06時41分

袴田巌さん事件、58年の再審が示す司法の課題

長きにわたる再審の行方—袴田巌さん事件に見る司法の課題

静岡県で起きた一家4人殺害事件から半世紀以上。袴田巌さんは無罪を勝ち取るまでに実に58年を要した。事件の衝撃の大きさもさることながら、その再審過程の長さは、司法制度のあり方に対する疑問を浮き彫りにしている。最高検察庁の報告書と静岡県警の検証結果が示すのは、行き詰まった手続きと証拠管理の問題だ。

再審長期化の背景にあるもの

証拠開示の遅れもまた、再審長期化の一因となった。犯行着衣とされた衣類のカラー写真のネガフィルムや、取り調べを録音したテープの保管が不十分だったため、開示が遅れたと報告されている。もし適切な管理が行われていれば、袴田さんの無罪判決はもっと早く訪れたかもしれない。

「証拠捏造」の認定を巡る交錯

最高検の報告書は、当初の捜査が犯行着衣をパジャマと確信していたことから、矛盾する証拠を捏造するのは非現実的だと指摘。これに対し、袴田さんの支援者や弁護団は、市民による第三者の検証を求める声を上げている。検察側の「捏造はない」とする主張には、依然として多くの疑問が残る。

再審制度と司法の未来

再審制度に詳しい大阪大学の水谷規男教授は、警察が当時の捜査員に聞き取りを行ったこと自体は評価できるが、資料のみに基づく検察の捏造否定には問題があると指摘する。問題を認めることが出発点であり、不利な点を見過ごしていては教訓にならないというのだ。この事件は、再審制度のあり方や証拠管理の重要性を再考する好機である。

過去の過ちを認め、再発防止に努めることは、未来の司法制度にとって不可欠だ。袴田さんの事件は、その道筋を示す重要な一歩となる。司法の信頼性を高めるためには、透明性と公正さを確保することが何よりも求められる。何十年もかかったこの再審が、次の世代にとっての変革の一助となることを期待したい。

[伊藤 彩花]

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