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2024年12月28日 08時40分

能登半島の二重被災がもたらす“アニバーサリー反応”と心のケアの重要性

能登半島の二重被災が子どもたちの心に刻んだ傷

石川県能登半島を襲った地震と豪雨は、地域の復興を阻むだけでなく、住民の心に深い傷を刻みました。特に、未来を担う子どもたちへの影響は甚大です。能登半島の中学生たちが、終業式を終え、冬休みに入ったその時期、彼らの心の中にはまだ癒えない痛みが残っています。

能登半島の地震から約1年が経過し、地域は復興に向けて少しずつ歩みを進めています。しかし、その道のりは容易ではありません。地震の後に襲った記録的な豪雨は、地域にさらなる被害をもたらし、復旧作業を複雑にしています。災害の影響で生活環境に格差が生じ、一部の生徒は今も体調不良を訴えています。節目の時期に心身が不安定になる「アニバーサリー反応」が懸念されており、専門家は「誰にでも起き得ること。家族の理解が大切だ」と呼び掛けています。

石川県では、能登地方の学校にスクールカウンセラーを延べ約1000人派遣し、少年鑑別所の職員とも連携して子どもたちの心のケアに努めてきました。しかし、復興の兆しが見え始めた頃に再度の豪雨が襲い、生徒たちにさらなるショックを与えました。大半の生徒が元気を取り戻す中、頭痛や腹痛、睡眠不足に苦しむ生徒もいます。彼らは、周囲との差に苦しみながらも、日常を取り戻そうと必死です。

子どもたちに忍び寄る「アニバーサリー反応」

能登半島の地震と豪雨の記憶は、子どもたちの心に深い傷を残しています。金沢大の菊知充教授(精神行動科学)は、被災1年などの節目にその記憶がよみがえり、心身に不調を来す「アニバーサリー反応」が懸念されるとしています。彼は「誰にでも起きる自然な反応だと知っておくことが大事だ」と話し、避難訓練などで自信を付けることの重要性を強調しています。

また、能登半島地震は正月の雰囲気とリンクしており、当時を思い出しやすいと指摘しています。家族や周囲の理解が、子どもたちの心の安定を支える大きな力となるでしょう。

高齢者に忍び寄る無力感と孤立

能登半島の二重被災は、高齢者にも大きな影響を与えています。地震と豪雨の被害を受けた77歳の男性は、「もうどうでもいいと思ってしまう」と語り、進まない復旧にいら立ちを募らせています。このような「学習性無力感」は、被災者の間に広がっています。

金沢大の菊知充教授は、無気力になってしまう学習性無力感が被災者に表れていると指摘し、元日が近づくことで被災の記憶がよみがえり、心身に不調をきたす「アニバーサリー(記念日)反応」を心配しています。

精神科医の林正男院長によると、地震後、飲酒量の増加でトラブルを起こしたり、一人暮らしで認知症が進行する高齢者が増えているとのこと。無理に感情を抑えると、精神に不調をきたす場合もあるため、話すことで心を落ち着かせることが重要だとしています。

災害関連死を防ぐための取り組み

災害関連死を防ぐため、金沢医科大の小畑貴司医師は、避難所や仮設住宅を巡り健康観察を続けています。彼の活動の原点は、30年前の阪神大震災です。避難生活での心身の負担を原因とした災害関連死を少しでも防ごうと、日々の活動を日記に記し、今後の災害に生かすことを目指しています。

特に、避難所での共同生活では、血流が悪くなるリスクが高まるため、エコノミークラス症候群の予防に力を入れています。被災者に歩いたり体操したりするよう呼びかけ、弾性ストッキングの着用をすすめています。

能登半島地震から1年が経過し、地域の復興は進んでいますが、被災者の心のケアはまだまだ必要です。石川県は「石川こころのケアセンター」から、精神科医や保健師らを被災地に派遣し、心のケアを続けています。

このように、能登半島の二重被災がもたらした心の傷は、子どもから高齢者まで幅広い層に影響を及ぼしています。復興への道のりは容易ではありませんが、地域全体が心を一つにして未来を切り開いていくことが求められています。

[佐藤 健一]

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