「またトラ」再登場で日本経済に緊張走る:自動車業界と貿易交渉の行方
「またトラ」再登場、日本経済に広がる波紋
アメリカでの大統領選挙が終わり、ドナルド・トランプ氏が再び大統領職に復帰することが決まりました。この「またトラ」現象が、今後、日本経済にどのような影響を及ぼすのか、関心が高まっています。特に、日本の自動車産業にとって、トランプ政権の関税政策は大きな試練となりそうです。
トランプ氏は、すでにメキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を課す方針を明らかにしており、これが北米市場に大きな影響を及ぼす可能性があります。日本の自動車メーカーは、これらの国々で生産された車両を多くアメリカに輸出しており、関税の引き上げにより、コストが増大するリスクが高まっています。カナダで生産される車両のうち、トヨタとホンダだけで全体の約6割を占めるという現状が、さらにその懸念を深めています。
日産とホンダの経営統合、未来への布石
こうした不安定な状況に対処するため、日産とホンダは2024年12月に経営統合に向けた協議を開始したと発表しました。さらには三菱自動車も合流する見込みで、実現すれば世界第3位の自動車メーカー連合が誕生することになります。この動きは、単なる規模の拡大を超えて、技術力や市場対応力の強化を図る狙いがあります。ホンダの三部敏宏社長は、「モビリティの変革をリードする存在となるためには、特定分野の協業ではなくもっと大胆に変革が必要だ」と力強く述べました。
この統合の背景には、電動化や自動運転といった自動車産業の急速な技術革新があり、各社はこの変化に対応するための力強い基盤を築こうとしています。しかし、トランプ政権のEV支援策の見直しが進められていることもあり、特にEV市場に対する懸念が広がっています。補助金の削減が現実のものとなれば、アメリカ市場でのEV需要が大幅に減少し、それが世界的なEV普及の遅れにつながる可能性もあります。
米国市場における日米貿易交渉の行方
第一次トランプ政権下での貿易交渉では、安倍前首相とトランプ氏の親密な関係が功を奏し、日本からアメリカへの自動車の輸出関税引き上げは避けることができました。しかし、今回は安倍首相の退任もあり、交渉が一筋縄ではいかない可能性があります。日本政府関係者の中には、トランプ氏の発言に日本への言及が少ないことや、アメリカの対外貿易赤字の主要相手国が中国やEU、メキシコであることから、日本の優先順位は下がっているとの冷静な見方もあります。
また、農林水産品に関しても、前回の交渉とは異なり、アメリカの農業関係者からの不満はそれほど高まっていないようです。しかし、関税引き上げが実施されれば、日本からの輸出に打撃が及ぶことは避けられません。特にホタテ貝や日本酒、牛肉といった品目が影響を受ける可能性が高いと懸念されています。
日本製鉄とUSスチールの買収問題
そして、暗雲が立ち込めているのが、日本製鉄によるUSスチールの買収交渉です。この買収は、ペンシルベニア州の大統領選挙の激戦地ということもあり、政治的な問題に発展しています。全米鉄鋼労働組合(USW)や地元有力者の反対に直面し、買収の是非はバイデン大統領の判断に委ねられることになりました。バイデン大統領はこれまで一貫して否定的な立場をとっており、買収が阻止される可能性が高いと見られています。
日本製鉄の森高弘副社長は、雇用の維持や投資による競争力強化を訴えてきましたが、アメリカ国内での説得は困難を極めています。もし買収が阻止されれば、日本製鉄は訴訟を提起することも視野に入れていますが、裁判が長期化すれば会社の経営にリスクが増すことも避けられません。
2025年1月7日が現職バイデン大統領の最終判断の期限です。この判断がどのような形で下されるか、日本製鉄にとっては極めて重要な瞬間となります。トランプ政権が開始されるまでに、買収の行方がどうなるのかは、まさに日本とアメリカの経済関係の行方を占うものとなるでしょう。
[松本 亮太]