資生堂とサントリー、経営者交代で見える企業文化の進化
資生堂とサントリーの経営者交代に見る、企業文化とリーダーシップの進化
日本のビジネス界を代表する二つの企業、資生堂とサントリーが、ここにきて大きな経営者交代の動きを見せている。資生堂の魚谷雅彦会長CEOは2024年12月31日に退任し、藤原憲太郎氏に経営権を譲る。また、サントリーホールディングスでは新浪剛史社長が退任し、創業家出身の鳥井信宏副社長が新たに社長に就任する。この二つのニュースは、企業のリーダーシップと文化の変遷を考える上で、非常に興味深い事例を提供している。
資生堂のグローバル化と多様性の追求
資生堂の魚谷雅彦氏は、2014年に初の外部出身者としてCEOに就任した。この時期、資生堂は低迷の中にあり、魚谷氏は日本最大のビューティ企業をグローバルな企業へと変革するという大胆なミッションを掲げた。彼の在任期間中、資生堂は公用語を英語に変更し、経営幹部に多様なバックグラウンドを持つ人材を起用するなど、国際化を強力に推進した。例えば、アンジェリカ・マンソンをグローバル最高デジタル責任者に起用し、彼女のリーダーシップの下でデジタル戦略を強化した。
魚谷氏の経営哲学は、単なる数字の分析に留まらず、人材と文化の多様性を重視するものであった。彼は「真のグローバル企業とは、異なる背景を持つ人々が協力し合うことでイノベーションを生み出す」とし、多様な視点を持った組織づくりを進めた。特にクリーンビューティブランド「ドランク エレファント」の買収は、急成長するカテゴリーへの対応を示すものであり、次世代につなぐ基盤を築いたと言える。
しかし、ここ数年はコロナ禍の影響で業績が低迷し、中国市場の減速も重なって苦戦を強いられた。それでも魚谷氏は、「クレ・ド・ポー ボーテ」や「ナーズ」が中国市場で依然として好調であることを強調し、今後の回復に期待を寄せている。
サントリーの同族経営回帰と新浪剛史氏への評価
しかし、SNS上では新浪氏に対する批判も多く見られ、特に「プロ経営者」としての立場に対して抵抗感を示す意見が目立つ。彼の「45歳定年制」発言や、児童手当に関する意見など、個別の発言が波紋を呼び、批判を受けることもあった。これらの発言は、必ずしも極論とは言えないが、誤解を招きやすい表現があったことも事実である。
プロ経営者への評価は、日本ではしばしば厳しいものとなりがちである。新浪氏は、サントリーの業績を好調に推移させたものの、個々の言動や企業文化への影響が、彼の評価に影を落としている。また、彼の経営手腕は高く評価される一方で、同族経営に対する根強い支持があることも事実だ。
企業文化の変化と未来への期待
資生堂とサントリーの経営者交代は、それぞれの企業文化とリーダーシップの在り方を再考させる機会を提供している。資生堂は多様性とグローバル化を強調する一方で、サントリーは同族経営への回帰という選択をした。この二つの道は、日本の伝統的なビジネス文化と、現代のグローバルなビジネス環境における多様性との間のバランスを取る努力を象徴している。
未来に向けて、資生堂はスキンビューティの分野での強化を図り、ウェルビーイングの概念を取り入れた新たなビジネスモデルを模索している。魚谷氏のビジョンは、体の健康状態、肌の状態、精神状態の三つが相互に関連するという考えに基づき、これを事業戦略に反映させようとしている。
企業が直面する課題は多岐にわたるが、資生堂とサントリーのそれぞれの選択は、ビジネスの未来を形作る上で重要な一歩となるだろう。読者の皆さんも、これらの変化を通じて、自身の働く環境やキャリアにどのような影響があるのか、考えてみるのも良いかもしれない。
[佐藤 健一]