経済
2024年11月29日 07時17分

キリンビール、価格改定とクラフトビール再挑戦!業界の未来を切り開く戦略とは?

キリンビールの挑戦:値上げとクラフトビール再生への道

2024年4月から、日本のビール業界にまた一つの波が訪れます。キリンビールは、「一番搾り」をはじめとする216品目のビールや缶チューハイの価格を5~12%引き上げると発表しました。これは、原材料費や物流費の高騰に対する対応策であり、同業他社であるアサヒビールやサントリーも同様の値上げを予定していることから、業界全体が直面している経済的プレッシャーを浮き彫りにしています。

この値上げの背景には、ビール製造に必要なアルミ缶や段ボールなどの資材価格の上昇が大きく影響しています。特に、国際的な物流費増加の影響は無視できません。ビール業界は、製品の供給チェーン全体でコスト上昇に直面しており、これが製品価格に転嫁される形となっています。日本国内の消費者にとって、この値上げは家計へのさらなる負担を意味しますが、業界にとっては持続可能なビジネスモデルを維持するための必要な措置です。

キリンビールの価格改定は、標準的なビール市場における競争だけでなく、同社のクラフトビール戦略にも影響を与えるかもしれません。現在、キリンはクラフトビールブランド「スプリングバレー」の再生に向けた取り組みを進めています。しかし、これまでの大規模な広告投資は期待された成果をもたらさず、販売目標を大きく下回る結果となりました。

この失敗の理由として、大量生産と大規模広告という「一番搾り」で成功した手法をクラフトビールにそのまま適用したことが挙げられます。クラフトビールはその名の通り、独自の個性と風味を追求する小規模生産が本質であり、「一番搾り」と同じ戦略では市場のニーズに応えられませんでした。消費者にとって「名前は知っているけど買わない」ブランドとなったスプリングバレーの現状は、キリンにとって大きな課題です。

ここで、キリンは新たな方向性としてクラフトビール事業部を設立しました。この新部署は、マーケティングと営業を一体化し、効率的な業務運営を目指しています。また、ヤッホーブルーイングからの出向者を受け入れ、クラフトビール市場におけるノウハウを吸収しようとしています。この取り組みは、スプリングバレーのブランド認知度を高め、消費者が実際に製品を体験する機会を増やすことを目的としています。

さらに、キリンはクラフトビールの提供方法を見直し、飲食店での体験を通じて消費者を魅了する戦略を採用しています。居酒屋やバルでの専用サーバーの導入やメニュー提案を進めることで、ビールと料理のマッチングを提案し、消費者に新しい価値を提供しようとしています。

このような背景を考えると、キリンのクラフトビール再生への道は、単に製品を市場に投げ込むだけでなく、消費者との新しい関係性を築くことに重点を置いていることがわかります。これは、単なる大量生産に依存しないビジネスモデルを構築しようとする試みでもあります。クラフトビールの魅力は、その多様性と文化的背景にあります。これを理解し、消費者に伝える努力が今後の成功への鍵となるでしょう。

総じて、キリンビールの挑戦は、価格上昇という市場の現実と、クラフトビールという新たな市場での成長を目指す二つの側面を持っています。この二つの課題をどのように克服し、新たなビジネスモデルを構築するかが、キリンの未来を左右する重要な要素となるでしょう。市場の変化に迅速に対応し、消費者に価値を提供し続けることが、キリンにとっての新たな道を切り開く鍵となるのです。

[伊藤 彩花]