JAXAのイプシロンSロケット、2度の試験失敗で未来の宇宙開発に暗雲
JAXAのイプシロンSロケット、2度の試験失敗が投げかける未来への課題
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、固体燃料を使用する小型ロケット「イプシロンS」の開発で難局に立たされています。2023年11月26日に種子島宇宙センターで行われた2段モーターの再地上燃焼試験は、前回7月に秋田県能代市で行われた試験に続き再び爆発事故を起こしました。この連続した失敗を受け、JAXAは原因調査チームを設置し、問題の根本解決に向けた取り組みを開始しました。これにより、2024年度内のイプシロンS実証機打ち上げ計画が厳しい状況に追い込まれています。
イプシロンSは、小型化する衛星の打ち上げ需要に対応する新世代の固体燃料ロケットです。このロケットは、高度350~700kmの太陽同期軌道(SSO)に600kg以上、高度500kmの地球低軌道(LEO)に1400kg以上のペイロードを打ち上げられる能力を持ち、複数の衛星を一度に軌道に投入できることを目指しています。JAXAの目標は、既に運用中の大型液体燃料ロケット「H3」との協働で国際競争力を強化することにあります。しかし、今回の試験失敗は、その計画に影を落としています。
イプシロンSの開発背景と課題
イプシロンシリーズは、JAXAの前身である宇宙科学研究所(ISAS)が手がけた固体ロケットの系譜を受け継ぎ、科学衛星の打ち上げ実績を持つMロケットシリーズの後継機にあたります。2013年に初めて打ち上げられたイプシロンは、2022年秋までに6機が運用されましたが、6号機では打ち上げ失敗が発生しました。この失敗を受けて、イプシロンSへの移行が計画されました。
イプシロンSの「S」は「シナジー」を意味し、H3ロケットの固体ロケットブースター(SRB-3)と生産を共通化することで、コスト削減を目指しています。これは、欧州の「VEGA」やその発展型「VEGA-C」といった海外の固体ロケットと競争するための戦略です。しかし、固体ロケットは一度点火すると燃焼が止まらない特性を持ち、地上試験での完璧な検証が必要です。今回の試験失敗は、この検証段階での重大な課題を露呈しました。
2度の試験失敗が示す課題
2023年7月に能代ロケット実験場で行われた試験では、モーター内部の推進薬に点火する「イグナイタ」部品の不具合が原因で爆発が発生しました。この際、モーターケースの耐圧性能が低下し、燃焼圧力に耐えきれずに爆発しました。これを受けて、JAXAは問題箇所への対策を施し、改善を図るために種子島宇宙センターで2回目の試験を実施しました。しかし、再度の爆発が発生し、問題の根本的な解決には至りませんでした。
この連続した試験失敗は、技術的な課題だけでなく、JAXAのプロジェクト管理能力にも疑問を投げかけます。特に、同じ問題が2度発生したことから、設計や製造プロセス、さらには試験の管理体制全般にわたる精査が求められています。
今後の展望と影響
イプシロンSロケットの開発遅延は、今後の日本の宇宙計画に影響を及ぼします。宇宙基本計画工程表によれば、イプシロンSは2024年度中に実証機(1号機)の打ち上げ、2025年度中に革新的衛星技術実証4号機や深宇宙探査技術実証機(DESTINY+)の打ち上げを予定していました。しかし、DESTINY+はすでにH3ロケットへの載せ替えが決定されており、イプシロンSの再試験が必要な現状では、その他の計画も見直しが避けられないでしょう。
今回の試験失敗は、地上での燃焼試験の重要性を改めて認識させる出来事です。地上試験で機体の不具合を発見することが、実際の打ち上げ失敗を防ぐ最善の策であるため、試験段階での失敗はある意味では幸運とも言えます。しかし、同時に、基幹ロケット開発のスケジュールに遅れが生じることは、国内外の顧客に対する信頼性を損なうリスクを伴います。
JAXAは、今回の失敗を糧に、技術的な課題解決とともに、組織全体のプロジェクト管理能力を再構築する必要があります。国際競争が激化する宇宙産業において、日本が確固たる地位を維持するためには、技術の革新と信頼性の向上が不可欠です。今後の開発がどのように進展するか、引き続き注視が必要です。
[田中 誠]