科学
2024年11月29日 06時47分

光害の真実:農業からウミガメまで、影響と解決策を探る

光害がもたらす多様な影響とその解決策

夜空を彩る街灯やビルの照明は、私たちの生活に便利さや美しさを提供しています。しかし、それが引き起こす「光害」は深刻な問題をもたらしています。光害は農作物の生育に影響を及ぼし、野生動物の生態を乱し、さらには星空の観測を妨げるなど、さまざまな側面で自然界に影響を与えています。

山口大学の山本晴彦名誉教授の研究によれば、イネは夜の街灯を日光と誤認し、その結果として出穂期が遅れ、収穫量や品質が低下することが明らかになっています。特に都市化が進む地域では、農地周辺にも多くの照明が設置されており、この問題はますます深刻化しています。山本教授の研究室では、イネに影響を与えない特殊な街灯を開発し、全国で普及を図っています。しかし、これはイネに限った話ではなく、枝豆やホウレンソウといった他の作物にも影響が報告されており、さらなる研究が必要とされています。

一方、アメリカでは光害がウミガメや渡り鳥の生態にも深刻な影響を与えています。例えば、フロリダ州のビーチでは、観光地の照明がウミガメの産卵や孵化を妨げています。夜の砂浜は本来暗く、海面に反射する月や星の光を頼りにウミガメは海と陸を識別します。しかし、ビーチ沿いの明るい照明により、子ガメは方向感覚を失い、海に戻れず命を落とすことがあります。ウミガメ保護機構(STC)は、照明の改修を通じて、ウミガメの保護に取り組んでいます。具体的には、照明を地面すれすれまで低くし、オレンジ色や赤色の波長の長い光を使用することで、ウミガメの生態を守る努力が続けられています。

また、渡り鳥も光害の影響を受けています。渡り鳥は夜空の星や月を頼りに長距離を移動しますが、都市の明るい照明に引き寄せられ、ビルに衝突する事故が多発しています。アメリカでは年間で約10億羽もの鳥が建物に衝突して命を落としているとされており、全米オーデュボン協会などが中心となって、不要な照明の消灯やセンサーの導入を推進しています。こうした取り組みはまだ始まったばかりですが、自治体レベルでの消灯義務化など、一定の成果が見られ始めています。

これらの取り組みは、科学技術と自然保護の共存を目指すものであり、今後もさらなる研究と技術開発が必要です。特に、農業や野生動物への影響を最小限に抑えるためには、それぞれの生態や生活環境に応じた照明の設計と運用が求められます。

最後に、光害が星空の観測にも影響を与えていることを忘れてはなりません。2024年のふたご座流星群が間もなく訪れますが、光害の影響で観測が難しくなる地域も多いでしょう。流星群を楽しむためには、光害の少ない場所で、スマートフォンなどのデバイスの光を避けて観測することが推奨されます。流星群は自然の壮大なショーであり、私たちが享受するためには、光害を減らす努力が不可欠です。

光害は人類が直面する新たな環境問題の一つであり、私たちの生活と自然環境のバランスを保つために、各国、各地域での協力が求められています。技術の進化と共に、私たちの生活を豊かにしながらも、自然との共生を目指す道を模索し続けることが重要です。

[中村 翔平]