宇宙の加速膨張とマルチバース理論:野村泰紀教授が語る新たな宇宙論の地平
宇宙の深淵:加速膨張とマルチバース理論の新たな地平
宇宙物理学の最前線で、私たちは再び天文学的な驚きと挑戦に直面しています。カリフォルニア大学バークレー校の野村泰紀教授がYouTube「ブルーバックスチャンネル」で語ったように、現代宇宙論は過去100年で急速に進化し、宇宙の起源から未来に至るまでの理解を深めつつあります。その中でも特に注目すべきは「宇宙の加速膨張」と「マルチバース理論」です。
1998年、ソール・パールマター、ブライアン・シュミット、アダム・リースらによる観測が、宇宙が単に膨張しているだけでなく、その速度が加速していることを示しました。これは物理学の常識を覆す発見でした。重力は通常、物質間に引力として働き、宇宙の膨張を遅くするはずです。しかし、観測結果はそれとは逆の現象を示していました。これにより、宇宙にはダークエネルギーと呼ばれる未知のエネルギーが存在し、重力に対抗する斥力として作用している可能性が浮上しました。
このダークエネルギーの正体は、未だに大きな謎として残っています。現在の理論では、ダークエネルギーは宇宙全体のエネルギー密度の約70%を占めるとされていますが、その正体を解明する試みは続いています。一方で、ダークマターとは異なり、ダークエネルギーは物質ではなく、空間そのものに内在する特性と考えられています。
マルチバース理論が示す新たな宇宙像
宇宙の加速膨張の発見は、宇宙論においてさらに深遠な問いを呼び起こしました。それは、私たちの宇宙が唯一無二の存在なのか、それとも無数の宇宙の一つに過ぎないのかという問いです。この疑問に応える形で、近年注目を集めているのが「マルチバース理論」です。野村教授もその著書『なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論』で詳しく解説していますが、この理論では、私たちの宇宙は多元宇宙の中の一つに過ぎないとされています。
マルチバース理論によれば、異なる宇宙ごとに物理法則や素粒子の性質が異なる可能性があると考えられています。これにより、私たちの理解を越える多様な宇宙が存在し得ることを示唆しています。これはまるで、私たちが一人の人間として祖先から子孫へと続く流れの中にいるように、私たちの宇宙もまた無数の泡宇宙の中の一つであるという視点を提供します。
この理論は、宇宙が別の宇宙に崩壊する可能性をも示唆しています。つまり、私たちの宇宙はある時点で別の宇宙に吸収され、消滅する可能性があるのです。このプロセスがどのように起こるのか、またそれがどのような宇宙を生み出すのかは、現在の理論では未解明のままです。
宇宙の未来:膨張の果てに待つもの
私たちの宇宙の未来は、現在の加速膨張が続く限り、ますます孤立したものになると考えられています。現在から数百億年後には、宇宙の膨張速度が光速を超え、遠方の銀河は永遠に視界から消えてしまうでしょう。その後、宇宙はただ加速膨張を続けるだけの「からっぽ」な空間になるとされています。
さらに、マルチバース理論が示唆するように、宇宙はいつか他の宇宙に崩壊する可能性があります。これは非常にスケールの大きい視点であり、宇宙論が抱える深遠な謎を解明するための新たな道を開くものです。
まとめとして、現代宇宙論は、私たちの宇宙に対する理解を大きく変えつつあります。加速膨張する宇宙とマルチバース理論の両者が示すのは、私たちが知る宇宙が無数の可能性の中の一つに過ぎないという考えです。このような視点は、物理学の枠を越え、哲学的な問いをも呼び起こします。私たちがどのようにしてこの宇宙に存在しているのか、そしてその未来はどのようなものになるのかという問いに対し、科学は今なお挑戦し続けています。
[伊藤 彩花]