国際
2024年12月03日 10時50分

シリア内戦の新局面:アサド政権の逆襲と中東のパワーバランス変動

シリア内戦の新たな局面:アサド政権の逆襲とその背後に迫る影

シリアの内戦は、激しさを増しながら新たな局面を迎えています。アサド大統領の政権が、北部の要衝アレッポの奪還に向けて反攻を強化する意欲を示し、イランとロシアという強力な後ろ盾を得た背景には、シリアのみならず中東全体の複雑な政治力学が絡み合っています。アサド大統領は「勝利以外の選択肢はない」と強調しましたが、その道のりは実に険しいものとなっています。

アレッポの衝撃:戦略的要衝の意味

アレッポは、シリアにおける第二の都市であり、戦略的にも極めて重要な位置を占めています。日本で言えば大阪が一夜にして制圧されたようなもので、その影響は計り知れません。反政府勢力がここ数年間で最大の攻勢をかけ、アレッポが瞬く間に陥落したことは、シリア内戦の新たな転換点を示しています。

この動きの裏には、シリア内戦を巡る国際的な力学が大きく影響しています。特に、ロシアとイランの支援を受けるアサド政権に対し、反政府勢力が一気に攻勢を強めた背景には、プーチン大統領がウクライナ問題にかかりきりとなっている状況があり、ロシアの支援が限定的にならざるを得ない事情が見え隠れします。

ロシアのジレンマ:ウクライナとシリアの狭間で

ロシアにとって、シリアは中東における戦略的要衝であり、反欧米のアサド政権を支えることは自国の国益に直結します。しかし、ウクライナとの戦闘が泥沼化する中で、ロシアがシリアに十分な兵力を割けない状況が続いています。人的損失が激しいため、北朝鮮やイエメンのフーシ派の軍勢を動員しなければならないほど、ロシアの手はウクライナで塞がっているのです。

この状況により、シリア政府軍は十分な支援を受けられず、主要都市アレッポの防衛をあっさりと放棄せざるを得なかったのです。プーチン大統領はウクライナとシリアのどちらを優先するかという「究極の選択」を迫られており、その決断がロシアの国際的な立場に与える影響は計り知れません。

トルコの動向と中東の再編成

トルコは反政府勢力を支援するだけでなく、シリア領内に軍事介入する動きも見せています。トルコのエルドアン大統領にとって、シリアの安定はEU加盟を目指す上で重要な要素であり、トルコが中東の新たなパワープレイヤーとしての地位を確立しようとしていることが伺えます。

アサド政権の未来:崩壊の危機とその先に

アサド政権の崩壊が現実味を帯びてきています。ロシアとイランの支援があっても、シリア国内の反政府勢力やクルド人勢力の攻勢が続く中で、政権の存続は厳しい状況にあります。仮にアサド政権が崩壊すれば、中東のパワーバランスは大きく揺らぐことになるでしょう。

特に、産油国とヨーロッパを結ぶパイプラインの建設が進めば、ロシアの石油・天然ガス市場に大きな打撃を与えることになります。ロシアが中東における影響力を失うことは、プーチン大統領の国内における権力基盤にも揺さぶりをかける可能性があります。

[伊藤 彩花]