科学
2024年12月03日 22時20分

「はやぶさ2」新ミッション!小惑星トリフネへ超高速フライバイ挑戦

「はやぶさ2」の新たなる挑戦:小惑星トリフネへのフライバイミッション

宇宙探査の最前線で活躍する「はやぶさ2」が、新たな挑戦に挑む。2026年7月、小惑星「トリフネ」を超高速で通過するフライバイ観測が予定されている。このミッションは、探査機と小惑星の間を秒速5キロという驚異的なスピードで接近することを特徴としており、ライフル銃の弾丸の約5倍の速さでの接近通過は、まさに宇宙のスピードレーサーのごとくスリリングだ。

トリフネは地球と火星の間を周回する小惑星で、その細長い形状は、かつてはやぶさが訪れた「イトカワ」を思い起こさせる。直径約500メートルのこの小惑星は、2001年に発見され、今年5月には日本神話の「天鳥船(あまのとりふね)」にちなんだ名前が付けられた。命名に込められた思いもさることながら、この小惑星への接近観測は、我々の宇宙探査の歴史に新たなページを加えることになるだろう。

精密制御が求められるフライバイ観測

今回のミッションでの最大の課題は、トリフネに衝突せず、かつ可能な限り近くで観測を行うための精密な制御である。これまでは地上で計算した結果を探査機に送信していたが、通信に時間がかかるため、最接近から10時間以上前のデータを基に予測せざるを得なかった。そこで、今ミッションでは探査機自身が搭載するコンピューターで、最接近の約10分前までのデータを基に計算を行う新手法が検討されている。この新たなアプローチにより、誤差を最小限に抑えることが期待されている。

また、超高速での観測には、シャッタースピードを100分の1秒単位まで短くするなど、ぶれを最小限に抑えるための技術が求められる。これにより、はやぶさ2が小惑星「りゅうぐう」で培った技術が、再び試されることとなる。

はやぶさ2の過去と未来:挑戦は続く

2014年に打ち上げられたはやぶさ2は、これまでに数々の成果を上げてきた。小惑星「りゅうぐう」から持ち帰った試料は、生命の起源を探る上で重要な手がかりを提供している。アミノ酸やRNAの一部、有機物、そして液体の水などが発見され、宇宙における生命の可能性を示唆している。

現在は、2026年のフライバイを経て、さらに2031年には直径約30メートルの小惑星「1998 KY26」への到着を目指している。この小惑星もまた、地球への衝突リスクが100年に1度とされており、「プラネタリー・ディフェンス」の観点からも重要な観測対象だ。地球防衛のための宇宙探査という新しい視点が、はやぶさ2の使命に加わっている。

10年の航海が教えるもの

しかし、10年の長い航海ははやぶさ2にとっても試練を伴う。4基のイオンエンジンのうち3基に不具合が生じており、慎重な運用が求められている。運用リーダーの三桝裕也さんは「設計寿命を超え、いつ壊れてもおかしくないが、健康であることを祈りながら、運用を続けている」と語る。その言葉に込められた探査機への愛情は、まるで家族を見守るかのようだ。

微生物の混入が示すサンプルリターンの難しさ

一方で、はやぶさ2が持ち帰ったりゅうぐうの砂粒から見つかった微生物は、地球での混入であったことが判明した。英国での分析中に混入したとされる微生物は、サンプルリターン計画の課題を浮き彫りにした。特に火星や木星の衛星から生命の痕跡を探る際には、地球の大気に触れることなく、汚染を防ぐことが求められる。

研究チームの矢野創JAXA助教は、「本気で生命の痕跡を調べるのであれば、地球の大気に少しでも触れては駄目だということが改めて示された」と述べており、今後の宇宙探査における課題が浮き彫りになった。

宇宙の探査は、まるで未知の領域を切り開く冒険のようである。はやぶさ2の挑戦は続き、私たちに新たな驚きと発見をもたらしてくれるだろう。その一方で、地上での分析の難しさと向き合いながら、未来の探査への道筋を模索することが求められている。この壮大な宇宙の物語は、まだまだ続く。

[鈴木 美咲]