日本のデジタル迷走:マイナ保険証が示す国際競争力低下の現実
日本のデジタル政策の迷走と国際競争力の低下:マイナ保険証に見る課題
日本の国際競争力が低下し続けている背景には、デジタル政策の迷走が大きく影響していると言われています。特に、「マイナ保険証」という日本のデジタル化の象徴的な取り組みが、その混乱を如実に物語っています。今回は、このマイナ保険証を通じて、日本が直面するデジタル競争力の課題を掘り下げてみましょう。
日本のデジタル競争力、世界で31位の現実
スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2024」によれば、日本は31位という結果でした。前年の32位からわずかに上昇したものの、アジアの先進国である韓国や中国に大きく遅れをとっています。ランキングでは1位のシンガポールや2位のスイスが突出しており、日本は他国の追随を許さない状況です。
このランキングが示すのは、日本が世界経済の大きな変化に対応できていないという現実です。特に、デジタル化の遅れは、ビジネスの効率性やインフラの整備に直結し、国際競争力の低下を引き起こしています。
デジタル政策の象徴、マイナ保険証の行方
マイナ保険証とは、マイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組みです。健康保険証としてのマイナンバーカードの導入は、デジタル化の一環として期待されていました。しかし、その実装過程での混乱が、競争力低下の一因となっています。
マイナ保険証は、薬の履歴を確認したり、高額療養費制度をその場で適用するなどのメリットを謳っています。しかし、多くの国民にとってはそのメリットが明確に伝わっておらず、利用登録が進まない状況です。さらに、情報管理に対する不信感から、マイナ保険証への切り替えに抵抗が生まれました。このような混乱が、デジタル政策の失敗を象徴していると言えるでしょう。
デジタル競争力を阻む日本の組織文化と政策の誤り
日本のデジタル政策の迷走は、組織文化や政策の誤りにも起因しています。企業の経営慣行が国際標準に追いついておらず、上位管理者に国際感覚が乏しいことがデジタル化の妨げとなっています。これは、世界経済の変化に迅速に対応できない状況を生み出し、競争力の低下を招いているのです。
また、政策の誤りとして、デジタル化の目的が曖昧であったことも指摘されます。マイナ保険証の場合、その運用が国民の利便性を向上させるというよりも、マイナンバーカードの普及自体が目的化されてしまった感があります。例えば、印鑑証明をコンビニで取得できるという利便性を強調する一方で、そもそも印鑑制度そのものを見直す必要性が議論されていません。これでは、デジタル化の推進が単なる形式的なものにとどまり、本質的な効率化にはつながらないでしょう。
マイナ保険証の手続き、会社員の新たな負担
さらに、マイナ保険証の手続き方法についても、利用者にとっての負担が増えているとの声が上がっています。会社員の場合、従来は入社時に会社が健康保険の手続きを行っていましたが、マイナ保険証の利用登録は個人で行わなければならないことが多いのです。この手続きの増加は、デジタル化によって効率化されるはずの業務が、むしろ逆に複雑化していることを示しています。
マイナ保険証の利用登録には、オンライン申請やATMでの申請といった方法がありますが、手続きに不慣れな人にとっては、これが新たな障壁となります。こうした手続きの煩雑さは、デジタル政策の目的と現実のギャップを浮き彫りにしていると言えるでしょう。
日本のデジタル政策は、今後どのような方向に進むべきなのでしょうか。国際競争力の底上げには、デジタル化の本質的な価値を見極め、利用者の目線に立った政策の立案が不可欠です。マイナ保険証の混乱から学び、次のステップへと進むための知恵が求められています。
[田中 誠]