国際
2024年12月15日 17時00分

シリア新時代の混沌:アサド後の挑戦と国際的思惑

シリア、アサド後の混沌:勢力の乱立と国際的思惑の交錯

アサド政権が崩壊してからわずか一週間、シリアは新たな時代の幕開けと共に、かつてないほどの混乱に包まれている。かつて半世紀にわたって独裁体制を敷いてきたアサド政権が崩壊し、反体制派が主導する暫定政権がスタートしたが、その行く末は依然として不透明だ。

北部では、旧反体制派を支えるトルコと、クルド人勢力を支援する米国が対立を深める中、過激派組織「イスラム国(IS)」が機会を狙って再び勢力を拡張しようとしている。国内安定化への道のりは、砂漠の中でオアシスを見つけるように困難だ。

暫定政権の挑戦と懸念

新たに樹立された暫定政権は、政権移行期間を3か月と設定し、憲法改正に着手することを表明した。しかし、暫定政権の中核を成す「シャーム解放機構(HTS)」は、米欧がテロ組織として指定していることで国際的な懸念を呼んでいる。指導者アフマド・アッシャラア氏がSNSで「革命の勝利を祝おう」と呼びかけたものの、少数派の排除や、テロの温床となる可能性を指摘する声は依然として根強い。

暫定政権は「法の支配」や「シリアの宗教・文化の多様性尊重」を掲げているが、各勢力の利害が複雑に絡み合うシリアにおいて、その実現は容易ではない。特に、トルコが支援する旧反体制派「シリア国民軍(SNA)」と、クルド人民兵組織「シリア民主軍(SDF)」の間の対立は深刻だ。SDFは米軍の支援を受けてIS掃討作戦を主導してきたが、トルコの攻撃でその戦力がそがれることで、ISの再興を許す可能性が高まっている。

国際社会の介入とシリアの未来

アサド政権崩壊後、米国とアラブ諸国の外相がヨルダンで会合を開き、シリア情勢について協議した。会合後の共同声明では、シリア国民主導の政権移行の必要性を確認し、敵対行為を停止するよう呼び掛けた。ブリンケン米国務長官は「シリア国民の成功を望んでおり、そのために支援する用意がある」とし、シリアに対する支援の指針となる共通原則について合意したことを強調した。

しかし、シリアの先行きは不透明だ。関係国がそれぞれの思惑で軍事行動に乗り出している中、民主化が進むのか、それとも新たな混乱の始まりなのか、予測は難しい。ロシアやイランが旧反体制派とどのように向き合うのかも依然として不明であり、各国の思惑がシリアを分裂させる可能性も指摘されている。

歴史的背景と文化遺産の危機

シリアは、世界で最も古くから人が住み続けている都市ダマスカスを有し、その豊かな文化遺産は人類の宝である。しかし、10年以上にわたる内戦でアレッポの石鹸作りやパルミラの古代遺跡など、多くの文化遺産が危機にさらされている。アサド政権下で民主化運動が徹底的に弾圧された結果、シリアは世界最大規模の難民を生み出すこととなった。

その一方で、トルコの海岸に打ち上げられた3歳の男の子の写真が象徴するように、難民危機は国際社会に深刻な影響を及ぼしている。シリアから逃れた約640万人の難民の行方は、今後のシリア情勢を左右する重要な要素となるだろう。

[高橋 悠真]

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