科学
2024年11月25日 04時15分

COP29での新たな資金合意とその限界、健康への影響と企業の責任

COP29での新たな資金合意とその限界

2024年11月、アゼルバイジャンの首都バクーで開催された国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)は、温暖化対策における資金面での新たな合意に達した。先進国は、開発途上国への気候変動対策支援として、2035年までに年間3000億ドルを拠出することを約束した。この合意は、現行の年1000億ドルから大幅な増額を図ったものである。しかし、途上国側は依然として5000億ドルの支援を求めており、不満の声を上げている。

COP29での交渉は、先進国と途上国の間の対立が際立った。特に、気候変動の影響を最も受けやすい貧困国が、十分な支援が得られないことに対し、強い不満を示した。インド代表は、この合意を「錯覚」と評し、現在直面している大きな課題に対処するには不十分であると指摘した。

一方で、COP29では官民合わせて年間1.3兆ドルの投資を呼びかけることも決定されたが、具体的な資金の提供方法や管理体制については明確なビジョンが欠けている。国連の気候変動枠組条約事務局のサイモン・スティル事務局長も、合意が不完全であることを認め、「今は勝利の余韻に浸れる時ではない」と述べている。

気候変動が健康に及ぼす深刻な影響

地球温暖化の進行は、「地球沸騰化」とも言われるほど危機的な状態にある。これにより、気温や海水温の上昇、異常気象の頻発といった現象が続いており、これらの変化が人々の健康に及ぼす影響についても警鐘が鳴らされている。最新の「ランセット・カウントダウン 健康と気候変動に関するレポート」では、2050年までに世界でさらに1450万人が気候変動関連死を迎える可能性があるとされている。

気候変動による健康被害の最も直接的なものとして熱中症が挙げられる。日本では、2021年に熱中症アラートが出された回数が613回だったのに対し、2024年には1700回に増加した。高齢者や基礎疾患を持つ人々にとって、これは命に関わる問題である。また、気候変動は豪雨や台風を引き起こし、これにより多くの人命が失われる。さらに、大気汚染の悪化、生態系の変化による食糧事情の悪化、感染症の拡大などが人々の健康に複合的な打撃を与えている。

企業の取り組みと未来への責任

COP29では「子どもへの教育」が議題の一つとして挙げられた。気候変動と健康の関係を理解することが、未来を担う子どもたちにとって重要であると認識されている。また、企業にとっても気候変動への対策は避けて通れない課題である。製薬会社アストラゼネカは、脱炭素目標「アンビション・ゼロカーボン」を掲げ、温室効果ガスの大幅削減に取り組んでいる。彼らは自社の事業活動における排出量を大幅に削減するだけでなく、バリューチェーン全体での排出量削減も進めている。

このような企業の取り組みは、気候変動による健康被害を最小限に抑えるための重要なステップである。しかし、真の解決には、国際社会全体の協調と持続的な努力が不可欠である。COP29の合意は一歩前進であるが、多くの課題が残されている。気候変動の影響を最も受けやすい地域への十分な支援が行われるよう、国際的な連携とさらなる資金拠出が求められる。

COP29を通じて浮き彫りになったのは、気候変動対策が単なる環境問題にとどまらず、人類全体の健康と生存に関わる重要な課題であるという現実である。国際社会が一丸となって、持続可能な未来を築くための具体的な行動を取る必要があることは明白だ。これからの取り組みが、未来の世代にどのような影響を与えるのかを考え、私たちは責任ある行動を求められている。

[高橋 悠真]