日産とホンダの統合協議、鴻海精密工業の資本提携がカギに
日産とホンダの統合協議に見る自動車業界の変革の兆し
2023年、日産自動車は、その長年のパートナーであったフランスのルノーとの関係を見直し、新たな道を模索している。そんな中、台湾の電子機器製造大手、鴻海精密工業から資本提携の打診があったことをきっかけに、ホンダとの統合協議が加速している。この動きは、単なる企業間の連携を超え、自動車業界全体の変革を示唆するものだ。
日産の苦境は、北米や中国市場での販売低迷に象徴される。2024年9月中間連結決算で営業利益が前年同期比9割減となり、経営不振に直面。特に、ハイブリッド車(HV)市場での競争力の欠如が痛手となっている。米国ではガソリン価格の高騰に伴い、燃費性能が高いHVの需要が急増しているが、日産は有力なモデルを欠いている。この状況を打開するため、ホンダとの協力が不可欠とされている。
一方、ホンダは2026年以降に次世代HV駆動システムを投入し、2030年までにHVの世界販売台数を倍増させる計画を立てている。日産との統合が実現すれば、技術の共有が進み、日産のHV市場での立ち遅れを補うことが期待される。しかし、ホンダ内部からは「不安はあるともないとも言えない」との声も聞かれる。これは、日産の業績が回復するかどうかが、統合の成否を左右するからだ。
日産の内田誠社長は、HVの需要の急増を見越せなかったことを認め、新モデルの開発には少なくとも1年以上が必要であると述べている。この発言は、日産の経営陣が市場の動向を読み間違えたことを示している。さらに、日産内部では「ゴーン体制の負の遺産」が依然として経営を圧迫しているとの指摘もある。
ゴーン体制の影響と日産の「ひとり負け」現象
日産の経営は、カルロス・ゴーン氏の改革から25年、そして「脱ゴーン」から5年が経過したにもかかわらず、時価総額は国内下位に転落してしまった。ゴーン氏の改革は劇的な成果を上げた一方で、組織の硬直化を招いた。ゴーン体制下では、重要な戦略は一人で決められ、その計画を忠実に実行する役員が引き上げられた。しかし、この結果、自分で判断できない「指示待ち役員」が増加し、経営のスピード感が失われた。
特に商品戦略では、新商品の投入が遅れがちで、これが市場での競争力を低下させている。2024年11月、日本経済新聞は「米国の日産の売れ筋上位10車種の発売時期をみると、22年と23年で合計1車種しか投入できていない」と報じた。このような状況では、売れ筋モデルが減少し、販売台数の減少につながるのは避けられない。
日産の現役技術者によれば、新車開発の期間を短縮する計画が進められているが、現場では「これでも甘い」という声が上がっている。日産の開発期間が長いのは、コスト削減のためにアウトソーシングを進めすぎた結果とされている。これに対する改革が求められているが、意思決定の遅れが改革を阻んでいる。
内田社長は、2024年度からの新中期経営計画「アーク」を策定し、2026年度までに100万台の販売増を目指すとしていたが、今回の決算で早くも白紙撤回を余儀なくされた。この計画の甘さが露呈し、日産の経営陣には市場動向を正確に読み取る能力が欠如していることが明らかになった。
未来を見据えた日産とホンダの可能性
日産とホンダの統合が成功すれば、両社はそれぞれの強みを活かし、HV市場での競争力を強化することができるだろう。ホンダの青山真二副社長は、統合の検討について「日産の業績が回復する前提で話をしている」と強調しており、日産がリストラ策を着実に実行することが求められている。
しかし、統合が進行する中で、ホンダが日産の経営不振によるリスクをどのように管理するかが重要な課題となる。特に、鴻海からの資本提携の打診が背景にある中で、日産がどのようにして独自の経営戦略を打ち立てるかが問われている。
[山本 菜々子]