経済
2024年12月19日 11時21分

グリラス破産の衝撃:昆虫食ベンチャーが直面した現実と課題

グリラスの破産:昆虫食ベンチャーが直面した現実と課題

順調なスタートが示していた未来

グリラスの創業は徳島大学の「生物資源産業学部」の新設がきっかけだった。「フタホシコオロギ食用化プロジェクト」がクラウドファンディングで成功を収め、バイオテクノロジーの専門家たちが熱意を持ってプロジェクトを推進した。2019年には満を持して企業を立ち上げ、2020年には無印良品との提携を実現。「コオロギせんべい」のヒットは、昆虫食の可能性を広く知らしめた。

しかし、こうした成功は一時的なものであった。2023年初頭、NTT東日本との連携により、「スマート養殖」を導入するなど、技術革新に対する積極的な姿勢を示したが、これも長続きすることはなかった。

「炎上」の影響と対応不足

転機は2023年2月に訪れた。徳島の高校での給食にコオロギ粉末が使用されたと報じられたことが、SNSでの炎上を引き起こした。実際には希望者のみに提供されたものであったが、「子どものトラウマ」を心配する声や「政府との癒着」といった批判がネット上で拡散。これにより、グリラスの売上は急激に低下し、計画されていた案件も次々と中止に追い込まれた。

広報担当の元従業員は、「苦情の多くは徳島や四国以外からで、グリラスの顧客でもない人たちからのものがほとんどだった」と証言している。こうした状況に対して、グリラスは十分なデマ対策や情報発信を行わなかったことが、業界全体に影響を及ぼしたと指摘されている。

研究と商売のジレンマ

グリラスのケースが示すのは、研究と商売の間に横たわるジレンマである。フタホシコオロギの食用化に情熱を注いできた渡邉氏ら創業メンバーは、商業的成功よりも研究の価値を重視していたように見える。「シートリア」と名付けた自社ブランドは、「地球に優しい」というコンセプトには魅力があるものの、消費者の舌を満たすことができなかった。

昆虫食の普及には「美味しくて安全」という要素が不可欠である。無印良品の「コオロギせんべい」の成功が示すように、消費者は新しい食材に対しても、美味しさが伴えば受け入れる可能性がある。

昆虫食の未来と挑戦

グリラスの破産は、昆虫食業界にとっての終わりではなく、新たな挑戦の始まりを意味する。渡邉氏は、飼料分野での再建を考えつつも、2050年までに再び人向けの食品市場に挑戦したいと語っている。昆虫食が環境問題の解決策として脚光を浴びる一方で、消費者の心理的抵抗を乗り越えるためには、より美味しく、より安全な商品開発が求められる。

昆虫食の普及には、食文化に根差した習慣を変えていく力が必要だ。地元の食材を活かしたレシピや、地域ごとの食文化に合わせた商品開発が鍵となるだろう。地球に優しいだけでなく、舌にも優しい食の未来を創造するため、業界全体の取り組みが求められている。

[佐藤 健一]

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