海洋の騒音とマイクロプラスチックがシャチとイルカに与える二重の脅威
海洋の騒音とマイクロプラスチック:シャチとイルカに迫る二重の脅威
北太平洋の海原では、シャチたちがいつものように狩りに出かける。しかし、彼らを待ち受けているのは、魚を追いかけるための静寂ではなく、船のエンジン音が響く騒々しい環境だ。新たな研究が、船の騒音がシャチの狩猟行動に深刻な影響を与えていることを明らかにした。シャチは反響定位を用いて魚を見つけるが、その音波は船の音に妨害され、狩りの効率が著しく低下している。
同時に、別の研究ではイルカの呼気からマイクロプラスチックが検出され、海洋汚染の深刻さが浮き彫りになった。これらの問題は、海洋生態系に対する人間の活動が及ぼす影響を改めて考えさせる。
シャチの狩猟に対する騒音の影響
シャチは、海洋生態系の頂点に立つ捕食者として知られるが、その狩猟行動は近年、船の騒音によって大きく影響を受けている。ワシントン大学の研究チームは、船の騒音がシャチに与える影響を詳しく調査し、騒音が1デシベル増加するごとに、シャチが餌を探す確率は4%高くなる一方で、実際に捕獲できる確率が12.5%低下することを発見した。特にメスのシャチは、騒音が最大レベルに達すると、魚を追いかける確率が58%も低下する。
この性差が示すのは、メスが群れの中で果たす重要な役割が、騒音によって阻害されている可能性だ。群れの回復力や子どもの育成においてメスの健康が不可欠であるため、この影響は群れ全体に波及する恐れがある。
イルカの呼気から見つかったマイクロプラスチック
一方で、海洋汚染の新たな側面が明らかになった。イルカの呼気からマイクロプラスチックが検出されたのである。チャールストン大学と他の研究機関が実施したこの研究は、野生のバンドウイルカの呼気に含まれるマイクロプラスチック粒子を初めて確認した。特にポリエステルなどの一般的なポリマーが多く含まれており、これがイルカの健康にどのような影響を及ぼすのか、さらなる研究が必要とされている。
人間と同様に、イルカが吸入したマイクロプラスチックが肺に炎症を引き起こし、組織の損傷や呼吸器系の疾患を引き起こす可能性がある。さらに、プラスチックに含まれる化学物質が生殖機能や神経機能に影響を与える可能性も指摘されている。
海洋生態系における人間活動の影響と対策
これらの問題は、海洋生態系における人間活動の影響がいかに深刻であるかを示している。シャチが狩猟に苦労し、イルカが健康を脅かされている現状は、即時の対策が求められる状況だ。
船の騒音に関しては、減速することで騒音を減らす努力が進められている。カナダと米国の一部の船舶は、すでに減速を受け入れ始めており、プロペラ技術の革新も進行中だ。より静かなプロペラを採用することは、燃料の節約だけでなく、騒音の低減にもつながる可能性がある。
一方、マイクロプラスチックの問題は、根本的なプラスチック使用の削減が求められている。イルカの健康を守るためには、プラスチックのリサイクルの強化や代替素材の開発が急務だ。
海洋生態系の保護は、地球全体の環境保護に直結しており、持続可能な未来を築くために、私たち一人ひとりができることを考える必要がある。シャチやイルカの声に耳を傾け、行動を起こす時が来ている。
[山本 菜々子]