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2024年12月22日 14時11分

「北の国から」選考秘話――田中邦衛が五郎役に選ばれた理由

「北の国から」に秘められた選考の舞台裏――黒板五郎役に田中邦衛が選ばれた理由

日本のテレビドラマ史に残る名作「北の国から」。1981年にスタートしたこのシリーズは、脚本家の倉本聰によって生み出され、田中邦衛が演じた黒板五郎のキャラクターとともに、多くの視聴者の心を掴んだ。しかし、その五郎役には、実は他にも候補者が存在していたことが明らかになった。倉本聰がTBSの番組『人生最高レストラン』で語ったその裏話は、私たちにドラマ制作の奥深さを改めて感じさせるものであった。

意外な選考基準「情けなさ」

五郎役の最終候補に名を連ねた俳優たちは、高倉健、西田敏行、藤竜也、緒形拳、中村雅俊といった、日本映画界を代表する豪華な顔ぶれであった。田中邦衛もその一人であったが、彼が選ばれた理由は「情けなさ」にあったという。倉本聰は「この中で誰が一番情けないか」とみんなに手を挙げさせた結果、文句なく田中邦衛だったと打ち明けた。

この「情けなさ」という基準は、実に興味深い。普通、主演俳優を選ぶ際には、演技力やカリスマ性、視聴者への訴求力などが重視されることが多い。しかし「北の国から」は、都会の喧騒を離れ、純朴な生活を送る家族の物語である。この物語の本質は、豪華な生活や華々しい成功とは対極に位置するものであり、五郎というキャラクターの「情けなさ」は、視聴者にとって親しみやすく、人間味溢れるものだったのだろう。

キャラクターの成長と視聴者の共感

倉本聰が「段々、いろいろなことがわかってきて、五郎さんの目線になっちゃた」と語った背景には、脚本家としての彼自身の成長がある。「北の国から」は、もともと都会の子供たちが田舎での生活に適応する様子を描く意図で始まったが、次第に五郎の視点へとシフトしていった。これは、都会の生活に馴染んでいた視聴者たちが、自然との共生や家族の絆を再認識する契機となったのだ。

視聴者は、五郎が直面する困難や喜びを通じて、自分自身の日常と重ね合わせることができた。五郎の不器用さや弱さは、決してネガティブなものではなく、むしろ人間らしくて愛すべき一面であった。田中邦衛の演技が、その人間味を余すことなく表現したことは、視聴者に深い共感を与え続けた要因の一つだろう。

俳優の選択が作品に与える影響

俳優の選択が作品に与える影響は計り知れない。もし五郎役に他の俳優が選ばれていたとしたら、「北の国から」は違った雰囲気の作品になっていたかもしれない。例えば、高倉健が演じる五郎は、もっと硬派で重厚なキャラクターになっていたことであろう。しかし、それではこのドラマが持つ「情けなさ」やユーモアが薄れ、視聴者に届けるメッセージも変わっていたかもしれない。

田中邦衛の「情けない」五郎は、視聴者にとって親しみやすく、欠点を抱えたまま奮闘する姿が共感を呼んだ。倉本聰が語る「本質的に情けない男の話」は、まさに田中邦衛の演技によって具現化されたものである。この選択が最終的に「北の国から」を名作へと導いたのだ。

ドラマの裏側には、さまざまな選択がある。その一つ一つが作品の雰囲気やメッセージに大きな影響を与えることを、今回のエピソードは教えてくれる。倉本聰が語ったこの裏話は、私たちに作品に対する新たな視点を与え、どのようにして名作が生まれるのか、その一端を垣間見るきっかけとなった。

[鈴木 美咲]

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