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2024年12月24日 14時30分

アッシュ・メイフェア監督新作『その花は夜に咲く』、サイゴンの夜に描く愛と試練

ベトナムの夜に咲く愛の物語―アッシュ・メイフェア監督の新作が描く、二人の青春と葛藤

1998年のサイゴンを舞台に、トランスジェンダーの主人公が描く愛の形

物語の舞台は、1998年のサイゴン。経済解放が進み、古き良き時代の風情を残しつつも、急速に変化する街の中で、主人公サンとナムの二人は、貧しくもつつましく愛し合いながら生活しています。サンは望まぬ性に生まれた歌手として夜の世界で働き、ナムは地下ボクサーとして懸命に生きている。彼らの生活は、まるでサイゴンの夜空に咲く花のように、儚くも力強いものです。

サンを演じるのはトランスジェンダーのチャン・クアン。彼女は自身の境遇を活かし、サンのキャラクターに深みを与えています。クアンはこの作品でスクリーンデビューを果たすと同時に、ミス・インターナショナル・クイーン2023ベトナム大会でトップ10に選ばれるなど、その美しさと存在感が評価されています。

愛し合う二人に訪れる試練と成長

夜の世界で生きる二人の関係には、嫉妬や裏切り、焦りや不安といった試練が次々と訪れます。若さゆえに、容赦ない現実に飲まれていく彼らの姿は、観る者に深い共感を呼び起こします。愛し合う二人にとって、この街は時に残酷であり、運命の歯車が狂い始める様子が描かれています。

ヴォー・ディエン・ザー・フイが演じるナムは、激しさと優しさを併せ持つボクサーとして登場します。彼の演技は、ナムの内面の葛藤や成長を見事に表現し、サンとの愛の物語に厚みを加えています。

監督の個人的な経験に基づく物語

メイフェア監督は、自らの中学時代の記憶とトランスジェンダーの友人をモデルにしたサンのキャラクターを通じて、個人的な経験を物語に反映させています。彼は、ベトナムにおけるトランスジェンダーコミュニティが直面する社会的な課題を強調し、この映画を通じてその問題に光を当てたいと語っています。

「近年、ベトナムではレズビアンやゲイのコミュニティに対しての受け入れが増えてきていますが、トランスジェンダーコミュニティは依然として厳しい差別を受けています。このテーマの重要性を訴えるだけでなく、若い少女サンがカメラの前で夢を追いかける姿を描くことで、私はこの映画を作りました」と監督は強調しています。

映画が描く未来への希望と切なさ

『その花は夜に咲く』は、単なる恋愛映画に留まらず、社会的なメッセージを持った作品です。愛し合う二人がどのようにして困難を乗り越え、どんな未来を選択するのか。これは、観る者にとってもまた、自らの人生を見つめ直すきっかけとなるでしょう。

映画のポスタービジュアルには、サンとナムが体を重ね合う姿が描かれ、「愛し合う二人にこの街は残酷」というキャッチコピーが添えられています。このビジュアルは、二人に待ち受けるドラマチックな物語を暗示し、観る者に深い印象を与えます。

3月21日から全国で公開されるこの映画が、どのように観客の心を打つのか。サイゴンの夜に咲く花のように、物語がどんな色を見せるのか、期待が高まります。

[佐藤 健一]

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