プーチン政権、シリアでの影響力失墜で揺れる
プーチン政権、シリアの影響力失墜で揺れる
シリアのアサド政権崩壊に伴い、ロシアのプーチン政権は中東およびアフリカにおける重要な軍事および経済拠点を失う危機に瀕しています。特に、ロシアが長年にわたって維持してきたシリアの軍事基地の影響力が薄れつつあることは、プーチン政権にとって大きな打撃です。
シリアのタルトゥース海軍基地とフメイミム航空基地は、ロシアにとって地中海地域での軍事展開の要であり、アフリカ諸国への軍事支援の中継地としても機能してきました。これらの基地は、1971年に建設されて以来、ロシア(当時はソビエト連邦)の軍事的な要所として活用されてきましたが、今回のアサド政権の崩壊により、その地位が揺らいでいます。
シリア反体制派との新たな交渉
プーチン政権は、これまで「テロリスト」と呼んできたシリア反体制派に対し態度を一変させ、基地の利権確保に向けた交渉を進めています。しかし、アサド政権下と同様にこれらの基地を利用できる保証はなく、ロシアにとっては厳しい状況です。プーチン大統領は、シリアにおけるロシア軍の駐留を確保するためには、シリアの新しい政権の利益にかなうことをしなければならないと述べています。
シリアの暫定政権は、「シャーム解放機構(HTS)」の指導者であるジャウラニ氏を中心に、反体制派を統合し、新たな国防省のもとで組織再編を進めています。反体制派の組織が解散し、国防省に統合されることで、シリア国内の融和を目指した新たな政権の構築が進んでいます。
アフリカとの関係への影響
ロシアにとってアフリカ諸国との関係は極めて重要です。ウクライナ侵攻以降、国際社会からの非難を受ける中で、ロシアはアフリカの一部の国々との連携を強化し、これらの国々が国連などでロシア寄りの姿勢を示すように働きかけてきました。シリアの基地からアフリカに向けて私兵集団「ワグネル」やロシア軍の部隊を派遣することで、政情不安定な国々への影響力を拡大してきたのです。
しかし、シリアの基地が利用できなくなることは、アフリカでの軍事的プレゼンスにも影響を及ぼす可能性があります。特に、スーダンの金鉱山開発のような経済的利益と引き換えに軍事支援を提供するという取引が困難になるかもしれません。
西側諸国の動きとシリアの未来
一方で、欧米諸国はシリアに対するロシアの影響力を排除する動きを強めています。米国はシリアの暫定政権との関係を強化し、従来の方針を見直す動きを見せており、EUもロシアやイランの影響力を排除する意思を示しています。このような国際情勢の変化は、ロシアにとってさらなる試練となり得るでしょう。
シリア国内では、暫定政権が少数派の保護を掲げ、国内融和を目指していますが、宗教や民族の対立が根深く、課題は山積みです。中部の都市ハマで発生したクリスマスツリーの放火事件や、それに対する抗議デモは、国内の緊張を示す一例です。
ロシアのシリアにおける影響力がどのように変化していくのか、それがアフリカや中東全体にどのような影響を及ぼすのかは、今後の国際情勢を占う上で重要なポイントとなるでしょう。シリアの新たな政権がどのように国を治め、国際社会との関係を築いていくのか、目が離せません。
[佐藤 健一]