筒井義信氏、経団連次期会長に就任へ – 財界総理の新時代
筒井義信氏、異例の経団連次期会長に就任へ – 財界総理の役割は変わるのか
日本経済団体連合会(経団連)が次期会長として、金融業界出身の筒井義信氏を指名したことは、多くの人々に驚きをもたらした。これは、従来の「財界総理」としての経団連会長のイメージを覆す大きな転換点となる可能性を秘めている。経団連会長といえば、長らく重厚長大産業を牽引する製造業のトップが就任することが通例だったが、筒井氏は日本生命保険の会長であり、金融機関からの初の選出となる。
この人事は、単なる経団連の顔ぶれの変化にとどまらず、日本経済全体が抱える課題へのアプローチの変化を示唆している。少子高齢化による人手不足や、地球温暖化への対応といった課題は、もはや製造業だけで解決できるものではなく、広範囲にわたる政策提言が求められている。筒井氏の選出は、こうした時代の流れを反映しているのだろう。
経団連会長=重厚長大からの脱却
経団連の歴史を振り返ると、戦後の復興期から高度成長期にかけて、鉄鋼、自動車、電機といった重厚長大産業の経営者が会長を務めることが常であった。これは、日本がインフラを構築し、輸出によって経済を成長させる過程で必要不可欠な存在だったからだ。しかし、時代は変わり、サービス業や金融業の重要性が増す中で、経団連の会長選出にも変化が見られるようになった。
筒井氏の選出は、まさにその象徴である。金融業界出身というだけでなく、彼が率いる日本生命は相互会社であり、株式会社とは異なる経営形態を持つ。この点は、株主の厳しい監視から離れた経営を可能にする一方で、経団連を率いる立場としては新たな挑戦を伴うことになる。
新時代の財界総理に求められるもの
筒井氏が就任する2025年には、彼自身がすでに日本生命の会長職を退いている事実もまた異例だ。これまで経団連会長は、現役の会長や社長が務めることが通例であったが、筒井氏の場合は退任後の就任となる。この点においても、経団連の人事は従来の枠にとらわれない柔軟さを見せている。
では、筒井氏が率いる経団連はどのような役割を果たすことになるのだろうか。単に製造業の支援を超えて、デジタル化、グローバル化、そして持続可能な社会の実現に向けた政策提言が求められている。特に、少子高齢化に伴う労働力不足や、地球温暖化への対応は、もはや一企業や一業界だけで解決できるものではなく、経団連全体としての取り組みが必要だ。
財界の存在感の再構築は可能か
近年、経団連会長の存在感が薄れているとの指摘もある。1990年代半ばまでは「財界総理」として政治に強い影響力を持っていたが、日本経済の長期停滞とともにその力は衰えた。現在の経団連が抱える課題は、まさにこの「存在感の再構築」である。
筒井氏の経団連会長就任が、単なる人事異動にとどまらず、日本の経済政策にどのような変化をもたらすのか。時代が求める変革を実現するために、彼の手腕に期待が寄せられる。彼が持つ柔軟な視点と新たなアプローチが、財界の地盤沈下を止め、新たな価値を創造することができるのか、その行方を見守りたい。
[高橋 悠真]