科学
2024年11月29日 07時03分

光害の衝撃:イネ農業からウミガメ保護、星空観測までの影響を考察

光害がもたらす新たな課題:イネからウミガメ、そして星空まで

現代社会がもたらす「光害」という問題は、私たちの日常生活に密接に絡み合っているが、その影響は自然環境や生態系にも広がり、予想以上に深刻なものとなっている。農業、動物の生態、さらには天体観測に至るまで、多岐にわたる影響について考察してみよう。

### イネの生育に影響を及ぼす光害

まず、農業分野における光害の影響を見てみよう。山口大学の山本晴彦名誉教授が率いる研究は、街灯の光がイネの生育にどのように影響を与えるかを示している。イネは、夜間の街灯を日光と誤認識し、出穂期が遅れることがわかっている。この遅延は、収穫量の減少や品質の低下につながる可能性がある。特に、高度経済成長期以降、都市化が進んだ日本の水田地帯においては、住宅やマンションの建設が進み、街灯の設置が避けられない状況が続いている。この課題に対して、山本教授は、人間の目には連続した光として認識されながらも、イネには断続的な光として感知される特殊な街灯を開発することで解決策を模索している。この取り組みは、都市型農業が広がる現在の社会において、持続可能な農業と都市生活の共存を目指すモデルケースとして注目されている。

### ウミガメと渡り鳥への影響

次に、動物の生態系に対する光害の影響を考えてみよう。アメリカ・フロリダ州のフォートマイヤーズビーチでは、ウミガメの保護が重要な課題となっている。夜間の明かりが強すぎると、孵化したばかりのウミガメが方向感覚を失うことがある。自然の状態では、海面に反射する星や月の光が海の方向を示すが、人工の照明がこれを妨げてしまうのだ。ウミガメ保護団体「ウミガメ保護機構(STC)」は、この問題に対処するため、ビーチ沿いの建物の照明を「低くする」「遮蔽する」「長い波長にする」という方針の下で改修を進めている。

また、渡り鳥も光害の影響を受けている。特に、大都市の明かりに引き寄せられて方向を見失い、建物に衝突する事例が多発している。米国では、年間10億羽以上の鳥がこのような事故で命を落としているという。これに対し、全米オーデュボン協会は、不要な明かりを消すなどのキャンペーンを展開し、鳥に優しい環境づくりを進めている。

### 星空観測と光害

最後に、光害が天体観測に与える影響についても触れておきたい。特に、ふたご座流星群のような天文現象は、光害の影響を強く受ける。2024年の流星群は、12月14日に極大を迎える予定だが、満月の影響で観測条件が悪化する可能性がある。光害の少ない場所での観測が推奨されるが、都市部ではそれが難しい場合が多い。天文ファンにとっては、よりよい観測条件を求めて自然に親しむことが必要だ。

### まとめ

光害は、単に夜空を明るくし、星空を見にくくするだけの問題ではない。イネの生育不良やウミガメの孵化の失敗、渡り鳥の衝突事故など、私たちが想像する以上に広範囲な影響を及ぼしている。これらの課題に対処するためには、技術的な解決策だけでなく、社会全体の意識改革が求められる。私たちの生活と自然環境が共存する未来を築くために、光害への理解と対策を進める必要があるだろう。今後、さらなる研究と実践が進むことで、光害がもたらす課題を克服し、持続可能な社会の実現に寄与することが期待される。

[伊藤 彩花]